喫茶リリィで癒しの時間を。

「……はい」


「お客様が頑張っていたことは、ご自身が一番わかっているはずです。だから、ちゃんと自分を褒めてあげてくださいね」


 さゆりさんの言葉が、暗闇にいた俺に光を差してくれた。そんな気がした。


 真っ直ぐな言葉に胸が打たれて、優しい微笑みに、目を奪われる。

 穏やかな話し方と、可愛らしい声に心をわしづかみにされてしまった。


 目の前にいるこの女性は、人ではない。天使に違いない。そう確信した瞬間だった。


「ありがとうございます、いただきます!」


 ケーキに飾られた苺をフォークに差し、一口で食べる。甘酸っぱさが、疲れた体に染みるようだ。


「あら、最初に食べちゃうんですね、苺」

「あ、そうですね。無意識に……」

「私も、最初に食べちゃう派です。一緒ですね」


 なぜか嬉しそうに、にっこりと笑っているさゆりさんを見て――俺は完全に、恋に落ちた。


 決めた。高校生になったら、この喫茶店でアルバイトをしよう。そして、さゆりさんと仲良くなって、いい感じになったら告白する。
 結婚前提に付き合いたいから、十八歳以降に実行するのがベターだ。


 そして、もう一つ。これから先、ショートケーキは絶対に苺から食べることにしよう。
 

 中学三年の夏。試合に敗れた心の傷は、運命的な出会いによってすぐに癒されたのだった――。



 
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