喫茶リリィで癒しの時間を。
 
 俺は実可子ちゃんの隣に座って、覗き込むように目を合わせた。


「……あとさ、話を聞いて思ったんだけど、実可子ちゃんたちは、その子のことが嫌いってわけじゃないと思うんだ。ただ、うらやましかっただけなんじゃない?」


「うらやましい?」


「うん、俺にはそう聞こえたよ」


「そうなのかな。もしかしたら、そうなのかもしれない……」


 背後から、椅子の引く音が聞こえた。たぶん、ジジィトリオのだれかがこっちに来ようとしている。

 お願いだから、鈴木のおっさんだけはやめてほしい。


「隣の芝生は青く見えるといいますよね。他人が持っているものは、なんでもよく見えるものですよ」


 俺たちの傍にやってきたのは、石川さんだった。爆弾がこなくてよかったと胸をなでおろす。


「例えば私は、八百屋さんの娘としてうまれた実可子ちゃんのこと、うらやましく思いますよ」


「えっ、わたしを?」


 

 
< 90 / 176 >

この作品をシェア

pagetop