喫茶リリィで癒しの時間を。
「昔はケータイやパソコンなんて便利なもんはなかったからねえ。あっという間に音信不通さ。百合子はずっと、もう一度彼に会いたいと思っていたよ。いつかまたこの喫茶店に来てくれるかもしれない。それだけの理由で、赤字の店を続けてたってわけ」
「……さゆりさんは、すべて知ってるんですか?」
「もちろん。だからあの子は、就職したばかりの会社を辞めて、この店を引き継いだのさ。けなげで涙が出るよ」
「そうだったんすか……」
そんな深い理由があったなんて知らなかった。さゆりさんの抱えているものは想像よりもずっと重くて……孤独だった。
仕事を辞めて、赤字覚悟の店を引き継いだとき、どんな気持ちだったんだろう。子供の俺には想像することすらかなわない。
「それにしても、ずいぶん詳しいんですね」
「ああ、百合子とは中学からの友達だったからね。ちなみに、この三人と百合子は幼なじみさ。三人とも百合子に夢中でねぇ」
「百合ちゃんはいわゆる高嶺の花でした。私たちなんて相手にされるわけがない、ただ幼なじみとして傍にいられるだけで幸せ、そう思っていました。だから、突然現れた知らない男にすべて持っていかれたときのショックは……相当なものでしたよ」