それでは始めましょう
お互いに無言で仕事をすすめていき、『山』のような伝票が、『丘』のようになった頃。


「ガンちゃーん」

「んー?なんだー?」

「なんか歌ってー」

「なんでだよ!」

「だってヒマなんだもん」

「いやいやいや、ヒマじゃないでしょ。あなた残業中でしょ。伝票まだ残ってんじゃん」

「それでは歌っていただきましょう。岩瀬航大(イワセコウタ)で『アイアイ』」

「アーイアイ♪おサールさーんだよー♪って誰が猿や!」

「いいね、そのノリツッコミ~。」

ガンちゃん、顔はとってもいいのに、少し猿入ってはいるけど、とってもいいのに。その上、バカに付き合ってくれるなんて、優しいんだよね。

「よし、仕事しよ」

なんとなく気分がすっきりした私は、『なんなんだ』と呟くガンちゃんは無視をして、また数字を入力していく。ガンちゃんはため息をついているようだったけど、それも気づかないふりをした。

しばらくまた無言になり、キーボードをうつ音と、紙をめくる音だけが、二人しかいないオフィスに響く。

「つっき~」

今度、先に沈黙を破ったのはガンちゃんの方だった。




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