年下属性はありません!
上の階のバーになると,照明も暗くぐっと大人の雰囲気になる。

レストランでは向かい合って座っていたが,バーではカウンターに隣同士で座るため距離も近い。

お互いの心の距離も近くなる感じがした。

お酒の値段は高いが,場所代だ。

「木村先生とこんなところでデートしていただけるなんて夢のようです」

ドンペリが乙女みたいなことを言う。

「そんな大袈裟な」

「信じてないですか?」

「だって,今元主任かっこいいのに。からかわれているのかなって思うことがよくあります」

本音は,今元主任胡散臭いのに。何か裏があるのかなと思うことがよくあります。だが,さすがに正直には言えない。

言い方をマイルドにして,探りをいれてみた。

「ははは,照れくさくてついつい冗談みたいな口調になっているだけです。木村先生のことは本当にかわいいと思っていますよ」

ドンペリが目を合わせてくるが,そんなこと言われて平気なわけもなく,目をそらす。

「実は僕,こっちにいるのはゴールデンウィークまでにしようと思っているんですよ」

「そう,なんですね」

そうか,そう言えばうちの教室にいつまでもいるわけじゃなかった。

「いつまでいるかは主任の僕の一存で決められるんです。ほんとは一週間くらいで引き上げるものなんですけど,今回は粘って長いこと滞在させてもらってましたが流石に限界で」

ははは,とドンペリが笑う。

「その,こちらに長く居たのは・・・・」

「木村先生と仲良くなりたかったからです。でもそろそろ本部に帰って次の教室に行かなきゃいけなくなりました」

そっか,今回はお別れの挨拶というわけだったのか。

「僕の車で高速を使えば,ここまで2時間くらいで来れます。」

うちの教室は本部のある県の隣の県だ。

「もし,木村先生が僕と付き合ってくれるなら,毎週末こっちに来るのは無理じゃないと思っています。」

「えっ」

「仕事が忙しいときはちょっと厳しいけど。それでも月1回は来ます。ゆくゆくは,人事部のやつと掛け合って木村先生を本部に異動させるのも手ですね。」

ドンペリはさらさらと続ける。

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