年下属性はありません!
初恋
正行が塾に入ったって何も問題はない。

仲の良いやつが入るのはむしろ嬉しいはずだ。

嬉しいはずなのに,俺はなんだか木村先生がとられてしまうんじゃないかというよくわからない不安を感じていた。

取られるってなんだよ。

俺の専属の先生でもないのに。

それに智が入るときは何も思わなかった。

よくわからないまま,どうすることもできず,俺は正行に聞かれるまま塾の場所と連絡先を教えた。


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俺と智が自習スペースで宿題をしていると,正行が母親と一緒に塾に来た。

塾長は授業中で,対応したのは木村先生だった。

ちらっと正行の方を見てみると,木村先生がいつもの笑顔で話をしていて,心臓が掴まれたような痛みが走った。

そして怒りとも悲しみとも言えない変な感情があふれかえる。

なんだこれ。木村先生と正行が話しているのを見るだけで,こんな感情が生まれるなんて,俺はおかしんじゃないのか。

誰も何も悪いことはしていない。

どこにもぶつけようのない感情を持て余して,宿題どころではなくなった。

「智,俺なんだか体調が良くないから帰るわ」

「どうした?風邪?」

「多分そんな感じ。今日の体育,途中で雨降って寒かったし。」

もっともらしい理由をつけると智はえらく納得して心配してくれた。

「じゃあ,お先に」

「おぉ,気をつけてな」

智に手を振って教室のドアに向かう。

その途中,先生と話している正行にも軽くアイコンタクトで挨拶して教室を出た。

木村先生には挨拶しなかった。

なんとなく,挨拶したくない気分だった。
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