人間発注書
木々の間から確認すると黒いバンが下りて来る。


馴れた道だからか細い道でもスピードが出ている。


あれなら急に人が飛び出してきても止まれないはずだ。


しかし、車の後ろまでは確認することができなかった。


それには距離がありすぎる。


「行くわ」


車がどんどん近づいて来た時、母親がそう言って山道へ一歩足を踏み出した。


俺は太い枝を握りしめ、木々に身が隠れるように体勢を低くし、それを走ってきた車に思いっきりぶち当てた。


同時に母親の体が車にぶつかり、横倒しに倒れ込む。


俺は持っていた枝を森の中に投げ捨て、車の中からスーツ姿の男が出て来たのを確認してから「母さん!!」


と、声を上げて森から出て行った。
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