人間発注書
途端に辺りは騒々しくなった。


車から下りて来たのは2人。


他にはもういないんだろうか?


気になるけれど、ジロジロ見ているわけにもいかない。


俺は母親の横に膝をついて懸命に声をかけた。


母親は迫真の演技でジッと目を閉じ、呼びかけても答えなかった。


「冗談だろ! こんな所で何してたんだよ!」


スーツの男が焦った声を上げる。


「母さん! 母さん!!」


俺は母親の体に縋り付いて叫んだ。


「仕方がない、購入者に今日は無理だと連絡を。あと救急車だ」


男たちがバタバタと、電波が届く場所まで山道を駆け下り始める。


こんな事態は初めてだったようで車をそのままにしているのだ。


俺はしばらく演技を続けていたけれど、森の中からミホコと父親が出て来たのを見て止めた。
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