人間発注書
☆☆☆

森を抜けるころにはすっかり夕方の色合いにそまっていた。


山道には沢山の人が出入りしている。


売買されるはずの人間が2人も消えたのだから、当然だろう。


俺たちは民宿に戻らずそのまま汽車に乗り込んだ。


駅で誰かが待ち構えているかもしれないと思ったが、その心配は杞憂に終わった。


誰もいない無人駅を通り、ほとんど人の乗っていない汽車に乗り込むとようやく安堵できた。


伸紀もミホコも助けることができたんだ。


その事実に胸の奥がジンッと熱くなるのを感じた。


けれど、俺にとっての問題はまだ解決したワケじゃなかったんだ。


汽車に揺られていると、伸紀がゆっくりと口を開いた。


「車の中で瑠菜ちゃんの名前を聞いた」


「え……?」


俺は目を見開き、伸紀を見た。


「瑠菜ちゃんはこの数日間で『人間発注書』に売られ、その当日に買い手もついたらしい」


真剣な表情でそう言う伸紀に一瞬気が遠くなりかけた。
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