人間発注書
「すみませんお待たせいたしました。お会計は５６０円です」


慌ててそう言うと、彼女は更に困った顔を浮かべて首を傾げた。


「ごめんなさ。私今日はお財布を持って来ていないんでした。今朝は晴れていたしなんだか気分が良かったので、送迎を断って１人で学校へ向かったんです。そうしたら雨が降ってきて……。いつもは運転手さんが私のお金を持ってくれているので……」


すごく申し訳なそうにそう説明する彼女に、俺は瞬きを繰り返した。


送迎？　車？


一瞬それが何を意味しているのか全く理解できなかった。


けれど次の瞬間、彼女がお金もちのお嬢様なのだということが理解できた。


「そ、そうなんですね。じゃあ、今から迎えを頼んだらどうですか？」


「そうしたいのですが、高校を卒業するまでは携帯電話というものを持たせていただけなくて、連絡ができないんです」


それはもう別世界のようだった。


彼女は携帯電話すら持ったことがないのだ。

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