人間発注書
「瑠菜！」


俺は緊張でカラカラに乾いた喉で瑠菜の名前を呼んだ。


時間は約束時間ピッタリだ。


「こんにちは」


瑠菜が丁寧に頭を下げてこちらへ歩いてくる。


店内に数人いた女性客がチラチラとこちらを見ているのがわかった。


同性から見ても、瑠菜は可愛いのだろう。


そんな可愛い子と待ち合わせできたと言う事に胸を震わせながら、背筋を正した。


瑠菜は椅子に座っているだけで絵になる。


「何が食べたい？　買ってきてあげるよ」


そう言って席を立とうとすると、瑠菜は困ったように眉を下げた。


「ごめんなさい、私このお店に入るのは初めてで何が置いてあるのか知らなくて」


他のお客さんに聞こえないように小声でそう言う瑠菜。


小さな囁き声にドキッとしてしまう。


「そ、それなら一緒に選ぼうか。あとさ、俺たち同級生だから、敬語じゃなくていいよ？」


「同級生の方と敬語で話をするのは珍しいですか？」


首をかしげてそう質問されると、返事に困ってしまう。


なにせ瑠菜の生きている世界と、俺の生きてる世界は根本的になにもかもが違うのだ。


瑠菜にとっては同級生同士が相手でも丁寧な言葉を使うのが普通なんだろう。
< 82 / 304 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop