人間発注書
「え? い、今のは気合を入れたと言うか、なんというか」


こんなところまで瑠菜が食いついてくるとは思わなくて焦る。


自分で自分の頬を叩く変な奴だと思われたかもしれない。


「気合を入れるために自分の頬を叩くんですか?」


「う……まぁ、そうだね。気分を変えたい時とか、色々ね」


デートに誘うと言う気合をすっかりそがれてしまった俺は苦笑いを浮かべてそう説明した。


「私、本当に何も知らないで生きて来たんですね……」


ふぅ、とため息を吐いて瑠菜は言った。


「な、何も知らないってことはないだろ? 瑠菜は瑠菜で沢山の事を学んできたんだからさ」


慌ててそう言うと瑠菜は嬉しそうにほほ笑んだ。


その笑顔に心臓がドキンッと大きく跳ねる。


自分の頬が熱くなるのも感じた。


「そう言っていただけると嬉しいです。私でも、みなさんの輪の中に入れるような気がしてきます」


瑠菜の言葉に一瞬不穏な空気を感じ取った。
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