人間発注書
「そんな簡単に決めつけるなって。あの子が倒れた時の状況をもう少しよく思い出してみろよ」


新人にそう言われて、俺はドーナツ屋から出てからの事を思い返した。


瑠菜はスマホで迎えを呼ぶと言っていて、俺は迎えが車で一緒にいてあげるつもりだった。


それなのに、瑠菜は連絡をするより前に倒れてしまったのだ。


「なにもないよ。本当に瑠菜は疲れてたんだと思う。それなのに俺が呼び出したから無理をしたんだ」


そうとしか考えられなかった。


「それなら、来たときから顔色が悪かったりしたんじゃないのか?」


そう言われて、俺は瑠菜がドーナツ屋に入ってきた時の事を思い出した。


花柄のワンピースがキラキラと輝いてみえた。


瑠菜の頬はピンク色に染まっていて、とても体調が悪そうには見えなかった。


「……わからない。無理して隠していたのかもしれないし」


「でも、お前との会話は弾んだんだろ?」


「そうだな。色々と聞かれたし、瑠菜は興味津々だった」


そうだ。


それにあの時なにかを言いかけていたような気がする。


どうして俺たちがどんな生活を送っているのか気になって質問した時だ。


瑠菜は何かを話してくれそうに見えたけれど、結局何も教えてくれなかった。
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