sweet voice
荒井さんはタクシーを停めると、私を奥に座らせた。


運転手さんに行き先を告げるのをボンヤリ聞いていたら、荒井さんちの近くだって気づいた。


「あの、こういう時は私を先に帰してくれるものじゃないですか?」


「先に帰すわけねーだろ」


「あの、お互い明日は仕事ですよね?」


「知ってるけど」


有無を言わさぬ態度に、逆らうのをあきらめた。


珍しく、黙ったままの二人。


荒井さんが暮らすマンションの前にタクシーは停まり、荒井さんは料金を払うと、まるで私を確保するかのように左手を握って軽く引っ張った。


あったかくて、大きい手。


このまま部屋に行けば、荒井さんのことだけを想ってしまうことはわかっていた。


前回来たときみたいに、コーヒーを飲むだけじゃたぶん済まないことも。


でも、体と気持ちはバラバラのようで、その誘惑に負けそうになってしまう。


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