sweet voice
玄関に入りドアを閉めると、当たり前だけど暗闇に包まれる。


まるで闇の中をさまよっているような錯覚をおぼえたとたん、荒井さんが私を抱きしめた。


「俺は、花音が好きだ」


耳元で、あのゾクゾクするような大好きな声で、ささやかれた。


本当は、心臓が止まりそうなほど、うれしかった。


でも、気持ちとは正反対な言葉が出てきてしまう。


「なんで呼び捨てにするんですか」


「好きな子を呼び捨てにするのは、俺だけのものにしたいからだけど」


「電気つけてください」


「つけねーよ」


「じゃあ、離してください」


「離したくない」


玄関で、二人とも靴をはいたままなのに。


荒井さんは、私にキスしてきた。


あの、心地よくて溶けてしまいそうなキスを、何度も。


この状況から離れられる方法があるなら、教えてほしい。


たぶん、離れられる方法なんて、ない。


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