sweet voice
「えっ、お、お世話になっております」


動揺して噛みまくりの私に対して、荒井さんは冷静で、そして他人行儀だった。


『お忙しいところ恐れ入りますが、佐伯部長いらっしゃいますでしょうか』


「は、はい、少々お待ちくださいませ」


保留ボタンを押し、内線で部長を呼び出してつないだ。


部長の席は離れているから、何の話なのかわからなかった。


声を聞いただけなのに、ただの取り次ぎなのに、こんなにドキドキするなんて。


そんな私とは正反対の、あまりにもそっけない荒井さんの態度に、荒井さんは私のことをもう吹っ切ったんだ、と痛感した。


二人で会うようになってから、たまたま荒井さんからの電話を取ると、少し世間話をした。


あの声で冗談を言われたりするから、仕事中なのに思わず笑ってしまった。


そんな些細なことを思い出し、荒井さんからの電話を楽しんでいたことに、あらためて気づかされた。


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