sweet voice
駅へ向かう、少し前を歩く荒井さんの左手が、私の右手をにぎってくれる気配はなくて。


それを期待している自分に気づき、どうしたらいいのかわからなくなった。


私の存在を否定しているような、広い背中。


ポケットに突っこんだままの、左手。


このままじゃ、イヤだ。


「あ、あのっ!」


荒井さんはゆっくり振り向いた。


「え、えっと、その・・・」


呼び止めたものの、何から話せばいいのかパニックになった。


「この前は、ケンカ腰になってしまって、すみませんでした」


「いいよ別に、あれがおまえの本音だろ」


「あと、大阪の異動って、本当ですか?」


「あの場で、冗談言うわけねーだろ」


「大阪へは、いつ頃行くんですか?」


「3月下旬」


「そ、そうですか・・・」


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