sweet voice
スマホを持ち歩かないことがあっても、たいして困らないことがわかった。


茜には理由を話してあるし、そもそも頻繁にかけてくる相手もいないし。


茜は私を説き伏せようと何度もいろいろ言ってきたけど、私の決意は変わらなかった。


今の私は、荒井さんにふさわしくない。


私がしたことは、許されることじゃない。


物理的な距離があれば、忙しい日常にまぎれて、お互いに忘れていける。


そう信じて、仕事に集中して、残業も喜んで引き受けた。


ただ、忙しいはずなのに、一日がものすごく長く感じた。


桜前線は少しずつ北上し、家のそばの桜のつぼみもピンク色にふくらんでいた。


桜が満開になる頃には、荒井さんも大阪で新生活を始めているはず。


荒井さんが暮らす新しい部屋の近くには、桜があるかな。


< 195 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop