sweet voice
私は、自分の中の荒井さんへの想いに、あらためて気づいた。


後ろ姿だけでも、荒井さんだってわかるから。


顔や声だけじゃなくて、手や背中や腕や髪も、ぜんぶ愛おしいから。


「荒井さん」


いつもみたいに呼びかけるけど、人混みにまぎれてかき消されてしまう。


新幹線のドアに、並んでいる人が次々と入っていく。


こんなこと、したことないけど。


恥ずかしさとか、照れくさいとか、もちろんあったけど。


荒井さんを、失いたくないから。


「たくみー!」


自分でも信じられないほどの大きな声で、叫んだ。


荒井さんは、ゆっくり振り返ると、私を見つけてニヤッと笑った。


そのままUターンして、まっすぐ私の方へ歩いてきた。


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