sweet voice
「初めて呼び捨てにするのが、公衆の面前かよ」


目の前に立っている荒井さんは、私を見下ろしながら言った。


「すみません、あの、つい・・・」


「で、何しに来たんだよ?」


「やっぱり、私は荒井さんが好きです」


「なんで『荒井さん』なわけ?」


いま、呼び方問題を気にする?


でも、もうすぐ、発車のベルが鳴ってしまうんじゃないか。


今を逃したら、手の届かないところへ行ってしまう。


今まで生きてきた中で、最大の勇気をふりしぼった。


「拓海が、好き」


満足そうに笑った荒井さん、じゃなくて、拓海は、私をギュッと抱きしめた。


「ねえ、もう発車しちゃうんじゃ・・・」


「なあ、今日これから予定あんの?」


「えっ、ないけど?」


「じゃあ、いったん戻るぞ」


「えっ?」


拓海は私の手を引いて、ホームから続く階段を降りてしまった。


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