sweet voice
電話を切ってすぐに、雨が降ってきた。


あわてて雨をよけて、駅の屋根の下に入る。


折りたたみ傘も持ってないし、手帳もないし。


なんか、大人としてダメだな、私。


かなりヘコんだ頃、1台の車がロータリーに停まった。


ハザードを点滅させたまま、運転席から男性が1人出てきた。


傘をさして、まっすぐこっちへ向かってくるその姿は、荒井さんに間違いなかった。


ノータイで袖をまくったYシャツ姿も、めっちゃカッコいいんですけど。


こんな悲惨な状況なのに、荒井さんを意識している自分がいた。


「わるい、待たせたな」


「いえ、わざわざありがとうございます」


「とりあえず、乗れよ」


「はい、すみません」


私はまるで、ご主人様の言う通りに動く家来のように、従順だった。


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