sweet voice
男性とひとつの傘に入ったことなんて、何度もあるのに。


右半身が麻痺してしまったように、硬直したまま車まで歩いた。


運転席側から乗りこんで、助手席に座った。


「この時間だから、メシは食っただろうと思ったからさ」


そう言いながら、荒井さんは缶コーヒーとタオルを渡してくれた。


「本当に、ありがとうございます」


私のために来てくれて、素直に、うれしかった。


「さてと、呼び出されたワケでも聞こうか」


濡れた腕やバッグをタオルで拭きながら、部屋に入れなくなった経緯を話した。


「花音ちゃんって、シッカリしてそうなのに意外とマヌケだな」


「返す言葉もございません」


「まあ、俺を頼ってくれたのは嬉しいけど」


たまたま名刺がお財布に残ってたからです、とは言いづらい。


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