sweet voice
荒井さんは、私の前髪にそっとふれると、


「花音」


と、初めて呼び捨てにした。


閉じている目を、開きたかった。


声だけじゃなくて、表情が見たいから。


でも、それはできない。


信号が変わったようで、車は動き出した。


そのうち、私は本気で眠ってしまったらしく、


「着いたぞ」


と荒井さんに起こされるまで、気づかなかった。


「す、すみません、寝るつもりはなかったんですが」


「すげーヨダレ」


「ええっ!」


あわてて口元を隠したら、


「冗談だよ」


ニヤニヤ笑っていた。


「とりあえず、降りれば?」


ここはどこなのかキョロキョロすると、荒井さんのマンションの駐車場だった。


「意外と早く着いたし、コーヒー飲むだろ?」


「は、はい・・・」


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