sweet voice
荒井さんの言葉が、体の中をかけめぐっている。


何もされてないのに、体が熱くてほてっている。


なんで、そんな風にまっすぐにぶつかってくるんだろう。


そして、私の反応を確かめると、少し距離をあける。


接近したり離れたり、本気なのか冗談なのか、わからないよ。


からかっているなら、もっと若い子にすればいいのに。


そろそろ将来のことを真面目に考え出してる三十路女には、手を出さないでほしい。


「コーヒー、置いとくぞ」


「ありがとうございます」


荒井さんはいつも通りで、私の気持ちの変化には気づいてないみたいだ。


普段はコーヒーにミルクを入れるけど、今日はブラックで飲みたい気分だった。


苦い後味を消していくように、荒井さんのことは忘れるんだ。


「花音」


「・・・なんですか?」


「呼び捨てにされると、反応が変わるんだな」


ニヤニヤしてる荒井さんに、


「コーヒーごちそうさまでした。


失礼します」


つとめて冷静に、玄関へ向かった。


荒井さんは追いかけてきたり、話しかけてきたりしなかった。


私も一度も振り返らず、マンションを出て駅の方向へ歩き出した。


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