今 顔を上げたら、きっと。
*
月曜日、寺岡は出勤してこなかった。火曜日も。そして水曜日、2年間だった予定を早めて、当月限りで元々所属していた病院に戻る事が知らされた。
理世達検査技師には、「ご家庭の事情」とだけ伝えられたその理由の詳細は、小林が教えてくれた。
「奥さん、育児ノイローゼ気味だったらしいよ」
小林は、サービスで付いて来たピーナッツの薄皮を剥がして口に放り込む。
「早坂教授とは随分前から相談してたんだとさ。結局、あと半年も奥さんと子供だけにしておけないって事になって。
研究も勉強もいつでも出来るけど、子供の大切な時間は今だけだからって。
たまに来るとは言ってたけど」
「そうだったんだ……」
寺岡は、理世にそんな話を漏らしたことは1度もなかった。ただ、初めは……お互いに大切な人と離れて暮らすから、その不安や微かな淋しさを共有していたことを思い出した。