今 顔を上げたら、きっと。
「それにしても……」

 小林は、ビールを口にしてから鉄平を見る。

「鉄平。お前、本当に病理来んの?」

「はい、行きます。早坂教授とも保村教授とも相談して、病理部で臨床の勉強しながら、研究の方もやってくことにしました」

 理世はそんな事初耳だった。

 いつから? 本当に? と問いただす視線を鉄平に送ると、鉄平は嬉しそうにへらっと表情を崩す。

「九月から、俺、病理部行きますから」

「お前、何しに来るつもりだよ」

 あまりにもへらへらしている鉄平に、呆れたように小林が言うと、さらりと真顔に戻って鉄平は告げた。

「もちろん、理世さんに変な虫がつかないように見張りに行きます」

「アホか。お前が一番変な虫だっつーの」

 仕事しろ、と容赦なく言い返される様に、思わず理世も笑ってしまう。

「裕也さん、酷っ。理世さん、笑ってないでなんか言ってやってくださいよ」

 振られた理世は、言葉を探す。

「えー……。私も、鉄平が一番変な虫だと思う」

 だって、もう一生離れてくれない気がするから。



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 今 顔を上げたら、きっと。   END
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