晴れのち曇り ときどき溺愛
 歓迎会の店は古民家を改装したような佇まいで経年した木が淡いランプの下で黒く艶めいていた。斉藤さんと私が案内されたのは店の奥にある和室で部屋の真ん中には席が準備されてある。大きな一枚板のテーブルを囲むように朱色の座布団が五つ置かれてあった。


 大きなテーブルの上には赤の布が帯を引くように置かれてあり、黒のランチョンマットが人数分。そのマットの上にはいくつかの小鉢が並んでいて前菜が入っていた。和え物と煮物と浸し物が小鉢には彩りよく盛られている。その横には食前酒の梅酒らしきもの。そして、シンプルに削られた木の箸には白い和紙の帯が巻かれてあった。


 私と斉藤さんが部屋に入るとそこには見城さんと井上さんはもう来ていて並んで座っている。上座の席は勿論、室長である下坂さんだから、私はそこから離れた席に座ろうとすると、見城さんから『そこは違う。諸住さんは室長の横』と言われた。


 真横ではないけど、下坂さんの隣の席。急に、斉藤さんのカフェでの言葉が浮かんでくる。


『下坂さんの横に座ると惚れる』


 出来れば近くでない方がいいのに私の席は下坂さんの横。歓迎会であっても末席でいいのにと思った。自分の歓迎会なんて緊張でしかない。


「緊張するのも仕方ないと思うけど、緊張していると楽しめないよ。もうすぐ室長がくるから待ってて」


 そんな話をしているとふすまを開けて下坂さんが入ってきたのだった。

「遅れてすまない。さ、始めようか」
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