晴れのち曇り ときどき溺愛
 居酒屋の料理は味が濃すぎて喉が渇くことが多いけど、この店は味も薄めで上品で食べやすいし、美味しいからと少しずつ食べていくと自然と顔が笑ってしまう。


「梨佳ちゃん。どう?美味しい?」

「はい。美味しいです」

「よかった」


 歓迎会が始まって、一時間くらい時間が過ぎた頃のことだった。斉藤さんは見城さんの方にグラスを持っていき、何か話し込んでいる。その横で井上さんは二人の話を聞いている。


 私は話に入ってない下坂さんと二人で沈黙が続いていた。斉藤さんが隣に居た時は下坂さんも一緒に楽しく笑いながら話していたのに、二人になると何を話していいか分からない。この場に居るのが息苦しくて、挨拶の代わりにビールの瓶を持って全員の席を回ることにしようと立ち上がった瞬間、下坂さんは立ち上がろうとするのを止めた。


「お酌とかしないでいいよ」

「でも…」

「飲みたい奴は自分で飲むから」


 下坂さんは既にビールから日本酒に飲むものを変えていて、他の人も好きな物を飲んでいる。私はというと、一杯目はビールを飲んだだけで何も頼んでなかった。グラスが空いたら斉藤さんに言うと注文をしてくれるみたいだった。


< 119 / 361 >

この作品をシェア

pagetop