晴れのち曇り ときどき溺愛
 斉藤さんは飲むのが好きなのか、注文を取りながら自分のも頼んでいる。斉藤さんの席にはお盆が置いてあっては飲み終わったグラスが並んである。でもここにあるのが全てではなく半分は既に店員さんによって下げられている。酔っている気配はなく、これからが本番みたいだった。


「諸住さんは何を飲む?注文は斉藤が頼むから遠慮なく頼んで。お酒は飲めないわけじゃないよね」


 下坂さんの言葉は少しの含みを持たせてあった。お見合いの日に私は下坂さんの目の前でお酒を飲んでいる。普段は合併前に会ったことなんか素知らぬふりをしているのに、急に言うからドキッとしてしまう。


「酎ハイのレモンをお願いします」

「本当にそれでいいの?」

「はい。少し喉が渇いたので」

「斉藤。諸住さんに酎ハイのレモン」


 下手なことを言うのもどうかと思い、とりあえず喉を爽やかに潤せるものを頼むことにした。斉藤さんは『りょーかい』と元気な声を響かせる。すると、下坂さんはクスッと笑ってから目の前のグラスに口を付けながら、私を見つめ、小さな声で話し出した。


「今回の合併で全く知らない部署に配属されたけど恨んでいるか?」

「え?」
< 120 / 361 >

この作品をシェア

pagetop