晴れのち曇り ときどき溺愛
 テーブルに私の頼んだのが届いたので乾杯をすると、拳は飲みながら核心には触れず、世間話を始めた。こういう時の拳は言葉を探している時が多い。


 会社を離れた同期、それも異性の同期と今まで続いているのは琉生のマメな性格が私たちを離さずにいるからだと思うけど私は拳のことも遥のことも大好きだった。普段はたまにメールをする程度の仲だけど、高校の同級生のように気兼ねなく話せるのは稀な関係で大事だった。当たり障りのない世間話の合間に拳が静かに自分の気持ちを話し出したのだった。


 琉生は先に話を聞いているから、自分の水割りを飲みながら私の方を見つめていた。


「俺は柵が嫌いで好きなことだけをしようと思って会社を立ち上げた。好きなことだから頑張れるし、好きなことだから楽しいと思ってきた。会社が大きくなるにしたがって、自分の手だけでは増えていく仕事を捌ききれなくなって人を雇った。業績は順調だし、取引先ともいい関係を続けることが出来ている。でも、人が増えるにつれ、自分のやりたい仕事とは違ってきている」


 琉生は店の人を呼んで、もう一杯の水割りを頼んだ。


 やりたい仕事をするのは難しい。それは今の私も同じことだった。

「会社の為なら仕方ないと割り切らないといけないかもしれないけど、俺のところに今来ている仕事は受けるべきなのに躊躇してしまう。そんな自分のプライドが情けなくて」


 
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