晴れのち曇り ときどき溺愛
 ずっと営業室内で仕事をしていた私に下坂さんは今日二度目の爆弾を落とす。井上さんから卒業があるかもしれないと言われて、そのショックからも立ち直れない状況なのに、今度は『同行』と言ってきた。今日の下坂さんはどうしたのだろうかと思ってしまう。

「私がですか?」

「ここはシステムを主に取り扱う営業課だよ。客先にも行くよ」


 この一か月の間、下坂さんをずっと見てきたけど、本当にたくさんの案件をサラリと余裕でこなしていくように見えた。自分でした方が早いと思われる仕事もでも急に部下にさせてみたりもする。


 システム課の一員である私にもその恩恵?が巡ってきたのだろうか?



「わかりました。頑張ります」


 私はその場から走って逃げだしたかった。今なら、世界最速の記録を出せるかもしれない。そんなつまらない妄想を頭の中で繰り広げながら、私は自分の席に戻ると誰にも聞こえないように溜め息を零したのだった。


「下坂さんと同行しないといけないなら、少し今日は頑張ろうか」


 井上さんの声がいつも以上に優しく聞こえた。それにしても下坂さんは客先にいきなりの同行って何をさせるのだろう。下坂さんが話している時に、パンフレットを出したりするようなアシスタントなのか?それとも、下坂さんと並んで営業を掛ける?自分の立ち位置が分からない。
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