晴れのち曇り ときどき溺愛
「大丈夫。大丈夫」


 私はこの一か月で覚えたことと同じ分だけ自信喪失をしている。本当に合併というのは新入社員からのやり直しだと改めて思った。人によっては同じ仕事を続けられるし、人によっては全く違う仕事。企業が違えば風土も違う。それには時間が掛かる。


「全く成長出来ない自分が居るんですけど」

「そのために指導者がいるんだよ。でも、諸住さんはきちんと成長している」

「新しい人が配属されたら卒業なんでしょ」

「別に新しい人が来て卒業したとしても、何かあったら教えるよ。実際に斉藤もまだたまに俺の所にいるだろ。それと一緒。さ、そろそろ、明日のことを室長と相談しておいで。その方がきっと安心して帰宅出来ると思うよ」


 時間は定時をもう少しで迎えるという時間になっていた。明日の同行のことは下坂さんに聞かないと何もわからない。


「行ってきます」

「そんなに緊張した顔しないで。室長は優しいから」


 井上さんの変なエールに見送られて私は自分の席を立ったのだった。
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