晴れのち曇り ときどき溺愛
 今日は玲奈の代わりにお見合いを断るために来ているのに嬉しいと思ってしまう。下坂さんは優しいし、一緒に食事をしようとしている店は少しでも楽しめるようにと選んでくれたものだと分かる。


『私は玲奈の代わり』なのを忘れそうになる。

 お見合いは『断る』ということで話を持っていかないといけない。そう自分に言い聞かせながら目を閉じ呪文のように何度も繰り返した。

 予約してあったので部屋は店の奥の座敷で少し広めの個室が用意されていた。向かい合って座ると下坂さんはまたニッコリと優しく微笑む。

「ここは料理が美味しいです。玲奈さんも気に入ってくれるといいのですが」

「楽しみにしてます」

「期待は裏切らないと思います」


 期待は裏切らないというだけあって食事は美味しかった。美味しいだけでなく最初に運ばれてきた前菜でさえ女の子が好きそうな可愛らしさを醸し出している。口の中でほろりと崩れる真薯は自然の甘さが際立ち、トロリと掛かったダシの餡が口の中に広がる。本当に美味しい。

「美味しいです」

「気に入って貰えたなら良かった。何を飲みますか?良かったらアルコールはどうですか?ここは日本酒も美味しいし、ワインもいいのが揃ってます」


 目の前の料理と進藤さんの顔を見て、どうしようかと迷った。美味しそうな料理とお酒の組み合わせはそそられる。

「進藤さんは?」

「玲奈さんが良ければ飲みます」
< 15 / 361 >

この作品をシェア

pagetop