晴れのち曇り ときどき溺愛
 最初のビールが終わる前にいくつかの料理を頼み、それを食べながら今日の疲れを癒す。一人で来ている私に気を使ってか、カウンターの中で料理をしている男の人が色々と話しかけてくる。それがバッグに流れる優しい音楽のように聞こえていた。


「この生ハムはスペインで作られているもので、ウチの店長がスペインに行った先で気に入って、お客さんに出しているんですよ。『みんなで美味しいものを食べれば幸せになれる』っていいながら、でも、美味しい分原価ギリギリ、出せる数は限定だから運がいいですよ」


「そうなんですか?」

「そうそう。ラッキーだよ。きっといいことある」

「本当ですか?」

「うん。本当」


 ただ、口でそう言っているだけかもしれない。でも、食べてみて、それが本当にラッキーなことだと分かった。生ハムは本当にジューシーで塩味は抑え目。その分、ハム自体の肉の味が濃厚で舌の上を踊る。美味し過ぎて飲み込むのが勿体ないと思うくらいだった。


「本当に美味しい」

「でしょ。この生ハムと白ワインの組み合わせはおススメ」


 私は勧められるままに生ハムと白ワインを堪能し、心地よい音楽を聞きながら、心地よい酔いに身体が満たされていた。


「そんなに嬉しそうな顔をすると勧めた甲斐があるね」

「だって。本当に美味しい」


 そう言って、店の人と笑いながら楽しい時間を過ごした。
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