晴れのち曇り ときどき溺愛
『なんでこんな場所で会うんだろう』

 そう単純に思った。会社からも離れた場所で店を出たタイミングで会うなんて誰が思うだろう。下坂さんはスーツを着たままなので、会社からの帰りというのは分かる。食事に来たとかなら本当に偶然としかいえない。


「私は一人で帰れますので大丈夫です。お気持ちだけ有難くいただいておきます。今からお食事ですか?」


「この近くに用事があってきたけど、終わったから帰る。食事は自分のマンションで食べるつもりだし、もしかしたら明日の事が不安?それなら何も心配しないでいい。明日の同行はウチの課がどのようなことをしているのかを肌で感じて貰いたいと思っただけだから」


 美味しいお酒とお料理を堪能して楽しい気持ちで帰ろうとしていたのに急に明日のことが思い出される。不安になっているから一人で自分の部屋に帰りたくなかっただけ。でも、それを、見透かされても言えない。


「いえ、ただ食事をして帰ろうとしていたところです」

「何かあったら俺が嫌だから送らせて貰いたいんだけど。俺が送ると迷惑?」


 ズルい言い方だと思った。仕事の時はそっけないのに、こんな時には優しい言葉を掛けてくる。『はい。迷惑です』とも言えない。迷惑というより、どうしていいか分からないだけ…。


「迷惑ではないですが、申し訳ないです」
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