晴れのち曇り ときどき溺愛
　ベッドに入ってしばらく何度かの寝返りを打って眠れぬ夜を過ごしたけど、それでも朝はやってきて、下坂さんとの同行の日になっていた。目覚まし時計で起きるまで私は眠ってしまっていた。

　ぐっすりとは言えないけど、とりあえず寝れてよかったとは思う。緊張はしているけど寝不足というほどではなかった。


　窓を開けると爽やかな空気が流れ込み、朝の光が青空から降り注いでいた。合併後初めて営業に出る日が雨でなくてよかったと思った。大きく深呼吸してから、私は自分の頬を軽く叩いてから、窓を閉めた。


　何時もよりも早めに準備をして、いつもより一本早い電車に乗る事が出来たことにホッとしていると、目の前には昨日私が握ることの出来ていた手摺りが見えて、不意に昨日の下坂さんの温もりと思い出させる。人の流れに逆らえなかったからとはいえ、私は下坂さんの胸の中にいた。

　
　優しい柑橘系の香りに包まれていた。


『何を思い出しているの』


　惹かれていく自分が怖かった。

< 158 / 361 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop