晴れのち曇り ときどき溺愛
 お昼休みが終わって、約束の時間になると下坂さんは私を連れて客先に向かった。私が緊張でガチガチになっているのを分かっているのに、それに気付かぬように難しいファイルの内容を話し掛けてくる。話している内容は大事なことだと分かるけど、緊張しすぎてどうしようもない。

「大丈夫だよ」

 そんな言葉の通りに客先に行った下坂さんは怖いくらいに冴えていて、相手先の意向を聞きながらも資料の目論見通りに話しを進めていく。嫉妬してしまうほどの営業力で憧れる。若いながらも課を束ねていくだけの実力を目の当たりにした。


「もう少し喜んでくれてもよくないか?契約は取れたし、諸住さんの紹介も出来た」

「私、殆ど何も出来なかったです」


「別に最初から全て自分で出来る必要ってある?そのうち出来ればいいから」


 確かに私は自分で出来る限りは頑張っている。でも、この下坂さんの営業力に思いっきり嫉妬した。


「焦ります」

「焦らなくていい。井上さんに教えて貰っているとそれだけで十分に営業力も知識も着く。さ、営業室に帰ろう。きっとみんな待っているよ」

「それって?」

「契約が取れたことを井上さんに連絡した。きっと、待っている」


 下坂さんの言葉の通りに営業室にはみんな戻ってきていて、下坂さんから契約の結果を聞くと一斉に拍手が沸いた。今までは自分の成績は自分のものだけだったけど、この課では…自分の成績は皆で喜ぶもの。


 それは大きな違いだった。
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