晴れのち曇り ときどき溺愛
 昼時のカフェの混雑の中、ギリギリの状態で席に座ると下坂さんは少し雰囲気を緩めたかのように見えた。営業室内に居る時と今では違っていて、思い返してみると一番最初にお見合いで会った時のような感じに似ている。何か見えないスイッチが切り替わったのかもしれないとしか思えないように雰囲気が違っていた。


 私は下坂さんの目の前に座ると、まず、自分の手に持ったままの財布からお金を払うことにした。いつも頼むものと一緒のを注文したから金額は分かっている。でも、私の動きを察知した下坂さんにお金を払う前に制止されてしまった。


「これくらいいい」

「でも…ご馳走して貰う理由がないです」

「上司らしいことくらいしてもいいだろ。それに少し話もあるし…」

「話ってなんですか?」

「そんなに焦らなくていいだろ。食べながら話すよ」

「ありがとうございます。いただきます」


 アイスカフェオレもベーグルサンドもいつもと同じように美味しいはず。でも、味があんまりしない気がした。クリームチーズのコクも舌に感じるけど、やっぱり味はしない。


 下坂さんは粒マスタードで味付られてあるチキンの入ったサンドを口に運び、小さく『美味っ』と呟く。ピリ辛のマスタードの効いたチキンは多めのレタスに挟まれて、スライスされた全粒粉の食パンに挟まれている。ボリュームたっぷりで一度は食べてみたいとは思っていたけど、どう考えても私に全部は食べれない。そのくらいにボリュームたっぷりだった。


「話というのは仕事の事なんだ」
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