晴れのち曇り ときどき溺愛
 そんな進藤さんの言葉にドキッとする。さっきまで『諸住梨佳』の素で話していたけど、今日の私は五条玲奈の代役。そして、少し淋しいと思ってしまった。こんなにも楽しい時間を過ごしていてもこれは水の泡のように消えて無くなるもの。


「秘書の仕事に成績としての数字は関係ないですが、色々な場所に行くこと多いので、知識としての数字は必要です」

「確かに常務秘書ともなると、情報収集も大事な仕事か」

「はい」


 全て玲奈の話の受け売りだった。


「失礼します」


 そんな声が障子の向こうから聞こえ、テーブルには綺麗な水菓子が置かれた。


「もうデザートだね」

 楽しい時間は流れるように過ぎてしまい、時計を見て進藤さんは私の勝手な解釈かもしれないけど、残念そうな顔に見えた。私が楽しかったと思ったように進藤さんも同じように思ってくれたのかもしれない。


「玲奈さんとは話していて面白かったから、時間が過ぎてしまった」


 それは、私も同じ。もう二度と会うことの出来ない進藤さんに私は…好意を持ってしまった。でも、まだ、『好意』であって『恋』ではない。今なら何事もなかったかのように『諸住梨佳』に戻ることが出来る。そう思いたい。そして、そうであって貰わないと困る。


「私も色々なお話を聞けて嬉しかったです。今日はありがとうございました」
 
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