晴れのち曇り ときどき溺愛
 下坂さんと一緒に会議室を出ると営業室には誰も居なかった。いつの間にかみんな帰宅していた。下坂さんは誰も居ない営業室を見てフッと笑った。


「逃げ足が速いな」

 別に逃げ足が速いというわけではないと思うが、そう思われても仕方ないくらいに机の上が綺麗に整頓され、パソコンの電源さえも落とされている。『今日の営業終了』と営業室の全てが言っていた。静かな営業室には私の机の上のパソコンと下坂さんの机のパソコンだけがまだ動いている。


「俺たちも仕事を終わらせて何か食べに行くか?」

「今日は友達の結婚のお祝いをしようということになっています」

「ミーティング前から決まっていたの?」


「下坂さんに言われるちょっと後でした。でも、まだ十分に間に合います。同期の集まりなので、仕事で遅くなっても大丈夫です」

「同期の集まりか…。行かせたくないって言ったらどうする?」

「え?」

「冗談だよ。楽しんでおいで。でも、あまり飲み過ぎないように明日も仕事が忙しいから」


 また下坂さんの言葉にドキッとする。いつもの営業室なのに二人っきりになると空気が薄くなるような気がしてならない。会議室では緊張の方が先だったけど営業室では苦しくなる。


「ありがとうございます。久しぶりに会うので嬉しいですが、飲み過ぎないようにしますね」

「ああ」
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