晴れのち曇り ときどき溺愛
 気持ちを落ち着けようと空いているソファを探しているとエントランスのドアが開き下坂さんが入ってきた。ブラックスーツに濃紺のシャツを着たその姿をシャンデリアの光が眩く。後ろに流した髪が艶めいていた。

 前にお見合いで会った時とも違う。鋭い視線は今から戦いに挑むかの様だった。

 私の姿を見つけたのか表情を少しだけ緩め、こちらに向かって歩いて来る。そして、私の横に立つとニッコリと笑った。その笑顔で少しだけ私も肩から力が抜けた。ちょっと笑っただけなのに…。ホッとする。笑った顔は私の知る下坂さんだった。


「待たせたな」

「いえ、時間通りだと思います。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく頼む」

「はい」


 下坂さんの雰囲気がさっき見た人たちと同じように見えた。私のように緊張してないように見えるのは下坂さんがこの世界に違和感を覚えない人だからかもしれない。


「少し時間あるが、コーヒーでも飲む?」

「いえ、大丈夫です」

「もしかして緊張している?」

「はい」

「俺がいるから大丈夫。美味しいものを食べて帰るくらいの気持ちで行こう」


 でも、私は右足と右手が一緒に出そうなほど緊張していた。
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