晴れのち曇り ときどき溺愛
 下坂さんは私を見てと満足そうに微笑んだ。これで眉間に皺でも刻まれたらと思うと、小さくなるだけでなく溶けてしまうかもしれない。


「ドレスがとても似合ってる。綺麗だよ。そろそろ、会場に行こうか。ギリギリで入ると注目を集めてしまうから」


 下坂さんはゆっくりと手を差し出した。目の前に出された手を見て私は固まってしまう。エントランスホールだけでも十分に可笑しくなりそうなくらいに緊張しているのに、手を出されても何をしていいか、分からなかった。まさか、握手??


「エスコートしたいけど、嫌かな?」

「エスコート?」


 素っ頓狂な声で馬鹿みたいにオウム返ししてしまい、思ったよりも大きな声をだしてしまい、恥ずかしくて顔が熱くなってしまった。エスコートって?あの映画に出てくるようなワンシーン?


 下坂さんはフッと笑い、私の右手首をキュッと握ると自分の方に引き寄せた。勢いついた私は下坂さんの左腕に倒れ込むように抱きついてしまった。


「すみません。あの、私…」

 
 サッと身を引こうとすると、また、キュッと引き、手をサラリと回したかと思うと、私の右手を下坂さんは自分の左手に巻きつかせた。服越しの下坂さんの腕を感じドキドキが止まらなくなった。下坂さんが近すぎる。


「行くぞ」


 下坂さんはエントランスホールを歩き出す。でも、それは私が転ばないようにとゆっくりとした足取りで、さっきの手を引かれた時とは全く違っていた。
< 218 / 361 >

この作品をシェア

pagetop