晴れのち曇り ときどき溺愛
 ビュッフェは見目麗しく食べるのも勿体ないほどだし、並んでいるお皿もカトラリーも輝くばかりに磨かれている。料理は次々と厨房から運ばれて来て美味しそうな香りと湯気を上げている。


 私は緊張のあまりどうにかなりそうだった。下坂さんは焦っている雰囲気はない。むしろこの状況を楽しんでいるように見えた。


「挨拶まで時間があるから、少し飲んで食事をしようか。このホテルの冷菜は美味しい。特にに魚介のカルパッチョはかなり美味しいからワインに合うよ」


 ワインに合うなんて簡単に下坂さんは言うけど今の私には少しの余裕もなくぎこちない笑いを浮かべるくらいしか出来ない。

 
「緊張して足が縺れそうです」

「俺がいるから転ぶことないよ。とりあえずシャンパンでも飲もうか」


 吐き慣れないパンプスのヒールがよろけた。

「怖い」

「大丈夫。俺がいる。とりあえず席に座ろうか。シャンパンを飲んでから主催者に挨拶に行って、それで帰っていいから」


 パーティの会場に入ってまだ5分も経ってない。それでも帰っていいと下坂さんは言った。
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