晴れのち曇り ときどき溺愛
 琉生から私の携帯にメールが入ったのは定時を過ぎたくらいだった。私はまだパソコンの前で稟議書を作っていた。


『今、客先を出た。いつもの店に予約だけ入れてる。先に飲んでいていい』


 メールにはないけど、この時間まで客先に居たのなら琉生のことだから契約は終わらせたと思う。それなら乾杯しないと…。『いつもの店』は拳が見つけてくれた店だったけど、居心地がいいので私と琉生が飲む時はその店が多い。大人数でも楽しめるけど、二人でもそれなりに楽しめる店はお財布に優しかった。


『了解』


 簡単なメールを返信すると私は自分のパソコンの電源を落とした。今日は客先に行かなかった分、用意したかった資料が一気に揃った。稟議書も思った以上に良く出来たと思うから、後は客先とのアポとの絡みを考えてスケジューリングをする。

 燻る思いを払拭するためにも今日はビールに酔って全てを忘れるのもいい。

 夕方の駅までの道は人がたくさんで流れに漂うように私は歩いた。向った先は駅の近くの一軒の居酒屋で酔って勢いついたオジサンの楽しそうな笑い声が聞こえる店が並ぶ一角にその店はある。小さな看板だけがひっそりとそこに店があることを示していた。
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