晴れのち曇り ときどき溺愛
 資料を見ながら下坂さんの主導で会議が進んでいく。井上さんから習っただけでは足りなくて下坂さんの言っている意味の三分の一くらいしか分からなかった。その分からない場所に付箋を貼っていく私を見て、下坂さんは静かに言った。呆れられるかと思ったけど、そうではなかった。


「分からないことは後で全部纏めて説明するから、付箋の貼り忘れはするなよ。分からないところを流して曖昧にされた方が今後の仕事に響くから遠慮しないでいい」

「はい」

「室長が忙しい時は俺も教えるから何時でも聞いていい」


 下坂さんの言葉に返事をすると横で見城さんもボソッと優しい言葉を掛けてくれる。まだシステムの仕事に慣れない私は頑張るしかないけど、それにしても出来ることが少なすぎて泣きそうになる。この二人に必死について行った先に何か新しい自分に出会えそうな気もしていた。でも、今は新しい自分の欠片さえ見えない。


 会議は三十分ほどだったけど、私には長い時間に思えてならなかった。分からないことがある度に貼られた付箋はどんどん増えていったし、資料も第一回の会議にしては膨大過ぎた。内容の説明とスケジューリングと自分の担当範囲を確認することで終わったが、私に与えられた範囲は二人に比べたら微々たるものだった。


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