晴れのち曇り ときどき溺愛
「諸住さん。この後少し残って貰っていい?付箋の箇所の説明をしようと思う。俺は午前中は空きだが、諸住さんは急ぎの仕事はある?」


 会議が終わって自分の席に戻ろうとすると、下坂さんに呼び止められた。貼られた付箋の量が多かったのでこれを全部教えて貰うとなるとかなりの時間を取ることになる。私に教えるよりも自分でした方が絶対早いのに、私に仕事を教えてくれようとしていた。


「はい。大丈夫ですが、私の付箋の箇所は多いですし、覚えられるか自信がないです」

「やってみて、出来なかった時にそれを考えればいい。さ、時間が勿体ないから資料を出して、どこが分からなかったのか見せて」


 資料に貼られた付箋は膨大だった。資料によっては二枚も三枚も貼ってある。それでも、下坂さんは嫌な顔を一切見せなかった。涼やかな声と共に私の付箋の貼られた場所に下坂さんが説明をしてくる。それを私は必死に赤ペンで書き留めた。資料が徐々に赤ペンでの書き込みが増えていき、その度に、途切れ途切れだった知識が繋がっていくのを感じた。

「どうだ。少しは理解出来そうか?」

「今の下坂さんの説明を聞いていたら、井上さんに教えて貰ったことが一つ一つ繋がっていって、なんとなく自分の中にスッと入ってきます」

「最初はそれでいい」

 多分、本当に小さな一歩だと思う。でも、私はその一歩を確実に踏み出した。
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