晴れのち曇り ときどき溺愛
 会議室を出ると営業室には誰も居なかった。誰か残っていそうなものだけど、今日は月曜日ということもあって、客先に訪問しているのだろう。ひたすらシステムに打ち込むことの多い見城さんも外出をしているようだった。営業室には私と下坂さんの二人きりになっていた。

「見事に誰も居ないな」

「そうですね」

 私の後ろから会議室を出てきた下坂さんはそんなことを言いながら自分の席に座る。そしてパソコンを開き何やら指を動かしだした。私は午前中に資料の整理をして昼からは見城さんと一緒にプロジェクトを開始するつもりだった。


 二人でいる営業室に漂う静寂の空気が重く。私は逃げ出したい気持ちになってしまう。昨日の打ち解けた雰囲気とは全く違っていた。勿論、ここは営業室なのだから昨日と一緒では困るとは思うけど、自分の中で混乱をしているのは間違いなかった。


「はい。あの、私。資料室に行ってきます」

「諸住さん」

「はい」

「土曜日はありがとう。お蔭でいい感じで仕事が進む。あの日挨拶をした先からいくつかの問い合わせも来ている。助かったよ」


 下坂さんの言葉にさっきまで心の中に浮かんでいた思いがジワリと溶ける気がした。私は優しくされたかったのではない。ただ、普通に話して欲しかっただけだと気付いた。無かったことにされたくなかっただけだった。


「いえ。結局は迷惑を掛けてしまいました」

「楽しかった」

「え?」

「一緒にいて楽しかったよ」
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