晴れのち曇り ときどき溺愛
 営業室に置かれてあるホワイトボードには見城さんが言ったように下坂さんの所には『直帰の可能性あり』と書いてある。でもどこに行っているのか聞いてもないから、親会社に行っているとは思わなかった。

 下坂さんの結婚については絵里菜さんが婚約者候補一人だというのは聞いたことがある。実際に絵里菜さんは女の私から見ても魅力的な人だし、あの優雅で洗練された雰囲気は下坂さんの横に立っても見劣りすることはない。


「そうなんですね」

「まあ、当の本人は仕事以上に愛しているものがあるとは思えないけどな。さ、室長の話はそのくらいでコーヒーを貰える?」

「はい」

「今日はしばらく営業室にいるつもりだから、諸住さんのプロジェクトの範囲で出来た分だけ回してくれる?一人でどのくらい出来るかを知りたい」

「はい。コーヒーを淹れてきます」


 コーヒーをマグカップに淹れながら私は頭の中が纏まらずに困ってしまった。仕事の事を考えて行かないといけないのに頭の片隅で下坂さんが笑っている。少し困ったような顔でそれでも優しい笑顔で私を包んでくれた。それは昨日のことなのに、楽しかった分だけ私は落ちていく。


 このまま素敵な片思いとして胸の奥にしまって置くのがいい。でも、私はこの自分の中の好きという思いをどこまで押し込めることが出来るだろうか。

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