晴れのち曇り ときどき溺愛
「新規プロジェクトの割り当てられた部分の資料を集めてます。それと見城さんから指摘を受けた部分の一部分の作り直しが終わりました。でも、まだ発表出来るほどのものはありません」


 悲しいほど何も報告出来ることがない。まだ始まったばかりだからというのは見城さんの進捗状況を見て、そんなことは言えなかった。下坂さんは資料から視線を上げることなかった。何かいくつもの書き込みをしていて、それがなんなのか私には分からなかった。

「新規プロジェクトの件で困ったことや分からないことがあったら、悩む前に私か見城にすぐに報告すること」

「はい」

「それでは朝礼を終る」


 朝礼が終わるとみんな散り散りになっていき、営業室には私と下坂さんだけが残っていた。昨日は朝から出掛けていたのに、今日は営業室から出るつもりはないのか、パソコンに向かい指を動かしている。私はこのまま営業室で仕事をすることが出来そうもなかった。


 二人でいると…今朝のことが思い出されてしまう。


 きっと、下坂さんは覚えてないと思うけど私は忘れられそうにない。静かな営業室内にキーボードを叩く音と、私の苦しげな息が漏れてしまう気がした。この沈黙に耐えられず私が席を立ちあがると、下坂さんは視線を上げ、私を見つめていた。


「出掛けるの?」

「いえ、資料室に行きます」

「今日の仕事が終わった後に時間あるか?」

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