晴れのち曇り ときどき溺愛
 携帯の地図を見ながら歩いた先にあったのは飲食店が入っているビルでその二階に琉生の指定した店の看板が見える。本当に歩いてすぐの場所だった。


 外から見たらただの無機質なビルなのに、中に入るとそこには真っ白な壁にこげ茶色の梁が天井に並んでいる。中世ヨーロッパを思わせるような店内は仕切られた空間がいくつもあり、琉生の名前を言うと、私は店の奥の方に案内された。

 大理石を敷き詰められた店内を真っ白なシャツに黒のズボンを履いた女の人の後ろを歩いていると衝立の奥に琉生の姿を見つけた。丸いテーブルの前に座った琉生の前には既にビールの入ったグラスがいくつか並んでいる。食事は何も来てないから私を待っていたのだろう。少し待たせてしまったようで申し訳ないと思った。


「お待たせ。随分待った?」

「いや、そんなに待ってない。梨佳。何飲む?」

「琉生と一緒でいい。私も今日は飲みたい気分だから誘って貰ってよかった」

「何かあったのか?」


 琉生に聞かれて、言葉に困ってしまう。下坂さんが一緒にパーティに行った後、私の部屋に泊まったことも、今朝、事故とはいえキスをしてしまったなんて言えない。


「自分の仕事の出来なさにね。今日は飲みたい気分。でも、琉生の話ってなに?」

「俺の話はいいから、梨佳の話をしてみろよ」


 
< 281 / 361 >

この作品をシェア

pagetop